巻末に「左衛門少尉平盛信(もりのぶ)」の署名(しょめい)を加えている。点画(てんかく)が狭小(きょうしょう)で、ひ弱く女性的である。が、平家一門の大番頭、左衛門少尉盛国の一男かと推定される(「平氏系図」には見えない)。見返し絵が華麗(かれい)を極める。西方(さいほう)、阿弥陀仏の光明に照らされる若い女性(にょしょう)。肩に掛帯(かけおび)を結び、脇息(きょうそく)に倚りかかって、経を読む。小さな経の中に見える同じ文字が、画面に点在する。葦手(あしで)(十世紀末、書体の一種。文字遊戯)である。
「もし」「コノ」「女人(にょにん)」(女の絵姿)「アリテ」(以上、蓮弁の輪郭文字)「此(ここ)」「命終(みょうじゅう)」「即(すなわち)」「安楽せかい」(蓮葉の輪郭)「生」(蓮台上)という文字をつなぎ、経句(経の教えにしたがえば、命終の時に安楽世界に生まれる)の一節。極楽浄土さながらの美しい画面。 |